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2021.08.25展示

【展示:昭和村のかすみ草】自然がくれるデザインのヒント

8月23日より、福島県奥会津昭和村のかすみ草を展示しています。
昭和村のかすみ草はプレーンなホワイトだけでなく、鮮やかな染めのかすみ草が推しどころです。

花が好きな方はもちろんお花をあまり知らない方でも、「好きな花は何ですか?」と聞くと帰ってくることが多いかすみ草。今回はこの花について深堀りしたいと思います。

今回のもくじ 
1 かすみ草の正体
 — 基本のプロフィール

 — かすみ草はどこの国の花か
2 ひらめきは自然の中に
 — かすみ草に隠されたヒント
 — ハスからヨーグルトのふたと建築へ

3 あとがき
 
キーワード:花序、染めのかすみ草、バイオミミクリー

(この記事のまとめ動画はこちら)

かすみ草の正体

基本のプロフィール

欠かせない名脇役であるかすみ草ですが、改めて考えてみるとどんな花なのかよく知らないことに気が付きました。ひとまず初心に帰り、いろいろな文献で勉強してみることに。

A-Z園芸植物百科事典 カスミソウ属 Gypsophila より*1
「G.paniculata(パニキュラータ)(英名:Baby’s breath)。主根がある宿根草。(原産地:ヨーロッパ東部、中部)」
ルーラル電子図書館 農業技術事典NAROPEDIA 「シュッコンカスミソウ」より *2
「ナデシコ科。中部および東部ヨーロッパから中央アジア、シベリアに分布する。1759年にイギリスに導入され、1879年に日本に渡来したとされるが、切り花として一般的に栽培されるようになったのは1975年以降である。」

切り花として栽培される宿根かすみ草の学名はGypsophila paniculata、英名はBaby’s breath、原産はヨーロッパ。

日本で切花として栽培されるようになったのは1975年とのことで、割と最近の花なのですね。
 カーネーションと同じナデシコ科 なのは聞いて納得、確かに葉の形や付き方が似ているかもしれません。
和名では「むれなでしこ」「はないとなでしこ」などと、「なでしこ」の名前がちゃんと反映されているようです。

牧野日本植物図鑑(インターネット版 増補版) より(原産地や分類など)*3
「むれなでしこ 一名はないとなでしこ Gypsophila elegans Bieb.
コーカサス原産の越年生又は1年生草本で切花用として広く栽培される。花屋では属にカスミソウ(霞草)と呼ばれている。(中略)和名は群れナデシコの意。」


(カーネーションとかすみ草、同じナデシコ科の影。)

戦後にようやく切り花として栽培されるようになったという点は、以前ご紹介したトルコ桔梗にも似たところを感じます。
ぜいたく品である花を栽培することが批判の対象になり、栽培が難しかったという話を聞いたことがありますし、洋花の栽培も戦後に再スタートして今に至るのでしょう。
まだ戦後100年も経っていないですから、日本国内での洋花品種の歴史はまだ始まったばかりなのかもしれませんね。

→過去記事はこちら トルコ?キキョウ?ユーストマ??トルコ桔梗の本当の名前とは

かすみ草はどこの国の花か

宿根かすみ草の中ではアメリカで選抜された“ブリストルフェアリー”が世界的に栽培されてきたようですが、今現在市場で見かけるのは“アルタイル”、“ペールスター”、“スターマイン”などの品種です。“銀河”などもありますし、お星さまにちなんだ名前が多いなあという印象。

ペールスター、スターマインなど多くの品種は イスラエルのダンジガ—社、ヨーロッパのセレクタ社、エクアドルのエスメラルダ社など海外の育種会社 で作られたものです。特にダンジガ—社は、世界中のかすみ草の営利品種の9割程度を育成しているのだとか。イスラエルというと少し意外な気がしますよね。

日本の登録品種(Gypsophila L.)106件を見ると、出願者の構成比はこんな感じです。ちなみに日本が育種開発の先駆けになったトルコ桔梗では、登録されている8件全てが日本の出願者によるもの(*4)。


(農林水産省品種登録ホームページ *4)

ヨーロッパ辺りからイギリスへ渡ってアメリカ・イスラエル・オランダ・日本などで育種されている、こうしてみるとかすみ草はかなり国際的ですね。
原産地の色も特に感じませんし、「この国の花」とは一概に言えなさそうですが、それも自己主張せずに他の花のサポートをしてくれるかすみ草らしいところかもしれません。

なお「アルタイル」は日本の育種会社である株式会社ミヨシさんのオリジナル品種です。

ひらめきは自然の中に

かすみ草に隠されたヒント


(最初の一パーツ)

以前ワイヤーとビーズでアクセサリーを作ろうとしたとき、見本もレシピも無かったので手元にあったかすみ草をお手本に作ったことがありました。
私はその時に手を動かしてみて初めて気が付いたのですが、かすみ草の花の付き方には規則性があるのですね。


(岐散花序)

花の付き方を「花序」といい、かすみ草の花序は 岐散花序(きさんかじょ) と呼ばれます。茎の先端に一つ付き、両脇から向かい合うように茎が出てその先端に一つ付き、その両脇からまた出て…と繰り返す立体的な花の付き方です。

育種会社さんではこの、出て来る茎の角度に注目して研究をされているのだといいます。
角度が違うとどうなるのか?というと…

  茎の角度が大きい →全体にふんわり、こんもりとした形に。一挿しでボリュームが出ます。

 

  茎の角度が小さい →まとまりがよく、密度が高い形に。手早く隙間に挿しやすい。

花の付き方が植物の気まぐれではなく規則的に決まっているからこそ、この図形的な違いが全体の見た目に影響してくるのです。

岐散花序の規則に従って作ってみたものがこちら。白と染めの青、2種類を再現してみました。

今回は現物を見ながら作ってはいませんが、自然とかすみ草に似た形になっていますね。
自分でバランスを考えて作るよりも自然な感じの出来上がりになったかもしれません。

青色の方には白いビーズも混ぜて濃淡をつけ、染めのかすみ草の濃淡を表現しています。
染めのかすみ草は、花を収穫した後に安全な染料を吸わせたもの。収穫以降に咲く蕾は白い花を咲かせるので、次第に濃い色と薄い色が混ざり合っていくのです。

こんな風に、花や植物の形から生まれたアイデアは実はたくさんあります。

ハスとヨーグルトのふたと建築

お盆の余韻もありますし、今回は「ハス」から生まれたアイデアについてご紹介しましょう。

花と共にお盆飾りに使われるハスの葉は、とても綺麗に水を弾きます。これは葉の表面に生えた細かな突起があり、突起の間にある空気が水滴を受け止めているため。
このデザインが、誰もが体験したことのある小さなモヤモヤを解決しているのです。
それは一体、なんでしょうか?

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