News新着情報

花の研究室

2021.09.04花の研究室

【今こそ祝おう】9月に楽しむ「大人の」節句

3月3日は「桃の節句」、5月5日は「端午の節句」。7月7日は「七夕の節句」ですね。
では、9月9日は何の節句?それにどうして、「節句」とつく日付は奇数月・奇数日なのでしょう。

今回は日本人でもなかなか知らない9月9日の節句、そして花と数字の関係についてお話しします。

今回のもくじ
1 9月9日は何の節句?
 — 「陽」が重なる日
 — それで、何をするの?
2 粋に楽しむ「大人の」節句
 — 桃の節句、端午の節句…9月9日は?

 — 菊の楽しみ方①菊酒
 — 菊の楽しみ方②着せ綿
 — 菊の楽しみ方③飾る!
3 あとがき
 
キーワード:陽の数、菊酒、着せ綿

(この記事のまとめ動画はこちら)

9月9日は何の節句?

「陽」が重なる日

まず、「節句」はどうして奇数月・奇数日なのでしょう?

古い中国の風習では 奇数が縁起の良い「陽」の数、偶数が縁起の悪い「陰」の数 とされていました。「七五三」でお祝いする年齢はすべて奇数ですよね。
そこで奇数が重なる1月7日の人日の節句・3月3日の上巳(じょうみ)の節句・5月5日の端午の節句・7月7日の七夕の節句、そして9月9日の節句を1年の中でも縁起の良い日、五節句として祝うようになったのです。
(1月7日だけ月と日の数が違うのは、1月1日の祝日がすでにあったため。)

9月9日は縁起のいい奇数の中でも一番大きい数字である「9」が重なるため「重陽の節句」とよばれます。日本ではもっとも知名度が低い節句ですが、実はもっとも縁起のいい日なのですね。

この重陽の節句の風習は漢の時代には成立し、その起源は前漢の時代までさかのぼるといいます。日本でも平安時代に重陽の宴が催された記録があり、あまり知られていないのが不思議なほど歴史のある節句なのです。

それで、何をするの?

3月3日の桃の節句や5月5日の端午の節句はこどもの健やかな成長を願う日、7月7日は七夕でおなじみですが、9月9日は何を祈願するのでしょう?もう秋口に入りますし、なんとなくこどもの日という感じでもないですよね。

結論からお話しすると、 9月9日の重陽の節句では健康と長寿 を祈願します。

奇数は縁起の良い数字ではありましたが、それが重なる節句の日は「陽」の気が強すぎるため、かえって不吉であるとも言われていました。この考え方は江戸時代には影を潜めたようですが、縁起かつぎというより厄払いが必要な日だったのです。
このため、 奇数で最も大きな「9」が重なって最もパワーの強い重陽の節句では特に無病息災を願うようになった ものと思われます。


(陽が極まって出た陰を祓う人のイメージ)

中国で起こった重陽の節句の風習には辺りを羨望できる高い所で宴をする「登高」、「茱萸(しゅゆ)」という植物を頭に飾ったり袋に入れて持ったり酒に浮かべて飲んだり、というものがあります。

…外での「宴」自体なかなか難しいし、茱萸(しゅゆ)ってなに?
と思われたあなたも心配ご無用。次の項からはごく身近な花を使った、現代日本でもできる「重陽の節句」の楽しみ方をご紹介しましょう。

粋に楽しむ「大人の」節句

3月3日は桃、5月5日は菖蒲…9月9日は?

さて、3月3日には桃の花、5月5日には葉菖蒲や花菖蒲…と節句ごとに花を飾ったり厄除けに使ったりしますが、9月9日の重陽の節句に用いられるのは菊の花。このことから 「菊の節句」 とも呼ばれます。

菊の花が重陽の節句で使われるのは、菊が不老長寿と深く結びついているため。
中国では魏の王様である文帝の手紙には、「縁起の良い9月9日に宴会を開く」旨と「長寿の力にあやかり菊の花を差し上げる」ということが書かれています。魏と言えば三国志ですね。


(重陽の宴を楽しむ諸侯のイメージ)

「菊は縁起が悪い花ではなくて、むしろ最大限の敬意をこめられるスペシャルな花だよ」ということは過去記事でも何度かお話ししています。この菊を嗜む非常に上品なお祭りなのです。大人の節句といってもよいでしょう。

→過去記事はこちら 菊=「お仏花」だけではない?進化するマムの魅力【イノチオ精興園さん】

→過去記事はこちら 【見学レポート】みのり式典様訪問:花に込められた想い

雛祭りもこどもの日も縁遠くなった大人の皆さま。菊を使った粋な行事ごとを楽しんでみませんか?

菊の楽しみ方①菊酒

先ほどの諸侯も楽しんでいましたが、 盃に菊の花びらを浮かべて飲み、その薬効にあずかる「菊酒」 という風習があります。風流な見た目に加えて菊の清涼感のある香りがお酒に移り、粋な趣のある晩酌に。
お酒に浮かべる花は食用菊を使ってくださいね。余ったらそのままエディブルフラワーとしておひたしや和え物、サラダの彩りなどに使ってみてもいいかもしれません。

リンク:旬の食材百科―食用菊の旬の時期や産地と、主な品種とその特徴

食用菊でなくても水を張って花首を浮かべて“菊酒風”にすると素敵です。生け花のように風流な景色が簡単に作れますよ。
上の写真はスーパーに売っていたスプレー菊をニトリのお茶碗やIKEAのお皿に浮かべてみたもの。菊と和テイストの食器の相性は抜群です。手近なものの組み合わせでも、なかなか素敵だと思いませんか?

また飲酒のできない禅寺では、重陽の行事に酒ではなく茶を嗜みました。
先ほどちらと登場した「茱萸(しゅゆ)」は赤い実をつける植物でしたが、日本には自生していません。輸入のものを使うにも限界があり、茱萸(しゅゆ)の代わりに菊を使うようになります。

茱萸(しゅゆ)の代わりに菊を、酒の代わりに茶をということで生まれたのが、日本独自の 「菊花茶」 
現代では失われてしまった文化ですが、お抹茶の緑に黄色の菊というカラーリングはなんとも秋らしい。想像するだに素敵ですね。

菊の楽しみ方②着せ菊

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Anna Osada(@osadanna)がシェアした投稿

「着せ綿」は菊花茶と同じく、日本独自に生まれた重陽の節句の文化です。
9月8日に菊の上に綿を被せ、翌日までに露を含ませます。その綿で体をふくことで老いを拭い去り、長寿を願うというもの。枕草子にも登場しています。

この様子にちなんだ「着せ綿」という季節の和菓子もあるので、こちらを味わってみるのもいいかもしれませんね。

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

和の暮らし(@wanokurashi)がシェアした投稿

菊の楽しみ方③飾る!

そして何より、自らの手で菊の清涼な香りや茎の瑞々さを感じながら飾ること!
スーパーに売っているような小菊の束でも可愛いですし、「ディスバッドマム」のような大輪ならもっと格好良く決まります。
菊は花の大きさ、形、色がとても豊富な花。1種だけでも花選びや組み合わせが楽しめます。

あとがき

「無病息災」が身に切実な願いごとになっているこのご時世。お外での宴はもう少し控え、お家で「重陽の宴」を粋に楽しんでみようと思います。
季節の変わり目でもありますし、皆様もお体にはくれぐれもお気をつけて。

営業企画部

参考文献

舘 隆志、禅が伝えたお茶の話 第6回重陽の節句とお茶の話、花園大学国際禅学研究所、http://iriz.hanazono.ac.jp/yomimono/tachi02-006.pdf
許 曼麗、重陽の詩歌:詩語、歌語と行事をめぐって、慶應義塾大学日吉紀要No35(2005.)p1(176)-28(149)
、慶應義塾大学日吉紀要慣行委員会、2005

「花の研究室」の記事をもっと見る

ここにショートコード