新着情報
花の研究室
2021.06.26花の研究室
カーネーションは「香りの花」?
なぜ「香らない」のか
(ウォルター・クレイン 「カーネーション (冬物語) シェイクスピアの花園より」1906)
カーネーションは、実は「香らない花」ではありません。私たちがピンと来ない理由は、その香りの性質にあります。
切り花のカーネーションの香りの主成分は、 安息香酸メチル系 と オイゲノール系 の2種類の香りです。安息香酸メチル系はユリやペチュニアにも含まれるフルーティーな香り成分、オイゲノール系はスパイシーな香りのもととなります。
どちらもほとんどの品種に含まれますが、“コマチ”や“Misty”といった品種は安息香酸メチルがより多く、“マンディサ”、“ミルキーウェイ”はオイゲノールが多いという風に品種によって配合は様々。
これらの香り成分は開花した直後は確かに発散するのですが、特に安息香酸メチル系のいい香りは採花して2日も経つと大きく減少してしまうのです。
その上、安息香酸メチル系は私たちが「香り」として感じられるために必要な成分の量が多いので、産地から消費者の手元に届くまでにはほとんど香りが失われたような状態になっているのでしょう。
残っているとすればオイゲノール系の香りですが、弱まっている上に「お花にスパイシーな香りがある」ということはあまり広く知られていないので、印象に残りづらいのではないでしょうか。
「香りの花」への可能性
(和田栄作「麝香撫子の花」1950)
菊、バラに次ぐ生産品目で、普段使いから特別な場まで活躍できるカーネーション。香りがあったなら、もっと素敵だなあと思います。カーネーションが「香りの花」になる日は来るのでしょうか?
実は最近の研究で、「乾式輸送よりも湿式輸送の方がカーネーションの香りが長持ちする」ことが示唆されています(岸本2021)。
収穫後の花にそれぞれ乾式輸送と湿式輸送を想定した処理をしたところ、開花後の香り成分の減少はどちらも抑えきれませんが、湿式輸送のグループでは香り成分がより強く残るという結果が出たのです。
現在、カーネーションの主流な輸送方法は乾式輸送ですから、輸送の方法を変えるともっと香りが残るようになるのかもしれません。
なお、この実験では花が開いてから収穫しているので、実際農家さんで収穫する時よりかなり開花が進んでいます。つぼみの状態で収穫+湿式輸送でどのくらい香るのか気になるところですが、工夫次第で香りの強いカーネーションを楽しめるようになるのかもしれない!と思うと大変ワクワクしますね。
あとがき
記事を書いていたら、私もカーネーションの香りを感じてみたくなってきました。
ちょうど夏でも手に入るお花ですし、百聞は意見に如かず、試しに香ってみようと思います。
皆さんもぜひ、夏でも元気な長野県のカーネーションで試してみてくださいね。
営業企画部
参考文献
金子能呼(2009)「切花の産地形成と構造的特徴」『地域総合研究』291-104.松本大学
岸本久太郎、他(2019)「カーネーション切り花の発散香気成分の分析と官能評価」
岸本久太郎(2021)Effect of Post-harvest Management on Scent Emission of Carnation Cut Flowers,The Horticulture Journal
農研機構 「カーネーション」 ルーラル電子図書館 農業技術事典NAROPEDIA http://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=10734(閲覧日:2021/6/25)
L. ディーズ(1988)『花精伝説』(吉富久夫)八坂書房
川崎景介(2016)『花と人のダンス』株式会社講談社エディトリアル
花の研究室の記事をもっと読む
1 2