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花の研究室

2021.06.26花の研究室

カーネーションは「香りの花」?

今年の梅雨は「しとしと」というより「さあさあ」「ざあざあ」という雨ばかり降りますね。
去年珍至梅の記事を書いていた時とはかなり違って変な感じです。日中の暑さも、いつもの夏より少し早く訪れているのではないでしょうか。

過去記事はこちら 『七夕が雨続きなのはどうして?』

さて、季節が夏に変わると、花の産地もより涼しい所へと移り変わります。
展示ルームではこれからメイン産地になる高冷地、長野の信州諏訪・佐久浅間のカーネーションを展示中です!

色彩豊かで持ちの良いカーネーションは、蒸し暑い夏の貴重な彩り。
今では一年中国産品が手に入る身近な花ですが、少し深堀りしてみましょう。

 今回のもくじ
1 カーネーション~ローマから長野~
 — 長野のカーネーション栽培
 — 「神の花」カーネーション
2 カーネーションってどんな香り?
 — 消費者のほとんどが思いだせない香り
 — なぜ「香らない」のか
 — 「香りの花」への可能性
3 あとがき
 

カーネーション~ローマから長野~

長野のカーネーション栽培

長野県は愛知、千葉、福岡、静岡といった上位の切花生産県の中では唯一夏場の花に強い生産地。 内陸性の涼しい気候  日本の中央に位置する地の利 を生かして、全国へ夏・秋の切り花を送り出しています。
長野といえば軽井沢などの避暑地に全国から人がやってきますが、花にとっても全国有数の避暑地になっているわけですね。名港フラワーブリッジのある名古屋には比較的近いので、近郊の産地とも言えそうです。

生産品目の中でもカーネーションは日本一の生産量を誇る花の一つで、昼夜の気温差と豊かな日差しによって、夏場でも色鮮やかで日持ちの良い花が作られています。

「神の花」カーネーション

菊、バラに次いで日本の主要な花き品目の一つであるカーネーションは、ヨーロッパ南部からトルコにかけての地中海沿岸で古くから栽培されていました。
どのくらい古くからか?は、名前の由来となる言葉から推しはかることができます。

「カーネーション」という語の由来には複数説ありますが、その中の一つが ラテン語の「coronation(=戴冠式)」または「corona(花冠)」 が変化したもの、という説。


(アルフォンス・ミュシャ 「東ローマ皇帝として戴冠するセルビア皇帝ステファン・ドゥシャン」1926)

過去の記事でも取り上げたように、古代ローマには花、特に香りの高い花で花冠を作る習慣がありました。カーネーションは特に名誉ある人を称える花として好んで使われていたため、花冠=カーネーションという風に結びついたものと思われます。

カーネーションといえば茎が固く、パキパキ折れると新鮮だね!というイメージですから、花冠にするというのは少し意外な気もしますね。
切り花用の茎がしっかりした品種が作られるのは19世紀に入ってからなので、おそらく古代ローマ人が手にしていたのはもっと草花っぽく、茎が柔らかいカーネーションだったのでしょう。


(レオナルド・ダ・ヴィンチ「カーネーションの聖母」 1473–1478)

カーネーションの語源としては、「花弁の健康的なピンク色が肉体を思わせ、まるで神様がこの世に身体をもって(肉体化して)現れた姿のようだ」ということでラテン語の 「carnis(肉体)」「incarnacyon(肉体化)」 が由来とする説もあります。学名のdianthusは神の花という意味ですし、大変喜ばしい花だったのは間違いなさそうですね。

16世紀にイギリスに持ち込まれた当初は割と好奇の目を浴びていたカーネーションですが、やがて「神聖な血肉のピンク色」としてキリスト教と結びつき、異国の地でも再び「神の花」として扱われるようになります。

 カーネーションとキリスト教
クローブのような香りがする→クローブはキリストが十字架に打ち付けられた釘に似ている→殉教の印
・キリストの誕生を祝ってクリスマスに咲いた花の一つ(ドイツ)
・楽園の庭に育つ花の一つ(イギリス)
・聖ペテロに捧げる花(イタリア)
 

ヨーロッパで品種改良が進むまでは基本は夏に咲く一季咲きでしたが、1840年、フランスのダルメ(M. Dalmais)によって四季咲き性のカーネーション「アティム」がはじめて育成されました。これによって、条件が揃えば周年花を収穫できるようになったわけですね。

カーネーションってどんな香り?

カーネーションは「香りの花」か

(アルフォンス・ミュシャ 「四つの花-カーネーション」 1897)

カーネーションの種小名caryophyllusは,スパイスのクローブのことで、これは先ほど少し触れたようにカーネーションがクローブに似た香りを持つことに由来しています。
加えて日本名のジャコウナデシコは麝香撫子と書き、麝香は動物性の香料であるムスクの香りのことです。

それほど「香りの花」という印象はないように思えますが、実際、消費者を対象にしたアンケートではカーネーションの香りを想起できる人は8%ごくわずかで、バラやユリなど他の花よりも非常に少ない結果となっています(岸本ら 2012)。
「カーネーションの香り」、あなたは思い出せますか?

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