News新着情報

花の研究室

2021.09.10花の研究室

【特別紹介】テアトロ—ヒロインに捧げるバラ

夏の暑さもいつのまに過ぎ、秋の草の香りがするこの頃。秋バラもそろそろ楽しみな季節ですね。

今回はこの9月から本格デビューする、とっておきのバラをご紹介します!バラ好きの私も大好きな一品、あなたのお気に入りにも加えていただけましたら幸いです。

今回のもくじ
1 テアトロ—ヒロインに捧げるバラ
 — テアトロの生い立ち
 — 広がるドレス、“劇場”に込めた想い
2 おまけ:戯曲の中のバラ
3 あとがき
 
キーワード:今井ナーセリー,テアトロ,舞台

(この記事のまとめ動画はこちら)

テアトロ—ヒロインに捧げるバラ

テアトロの生い立ち

 
(昨年7月の圃場の様子)

“テアトロ”は広島県の今井ナーセリーさんにより作出されたバラ。名港フラワーブリッジでは2020年の9月から出荷が始まり、満を持して2021年9月よりWeb等でも本格デビューします。

なお弊市場へ出荷頂いている産地さんの中で、“テアトロ”を出荷されているのは地元愛知県の生産地、JA西三河あぐりセンター野々宮様だけ。本格出荷が始まる前の圃場を拝見しましたが、「切り花でもこんなに柔らかくて可憐な品種があるなんて!」と驚きましたし、あまりの可愛らしさに顔がほころんで仕方がなかったことを覚えています。

 
(左:夏の花 右:出荷時)

左の写真は当時撮影した夏の花の様子。夏の花だけあって控えめですが、本領発揮すると右の写真のように花びらがぎっしりとして奥行きの深い花型になり、さらには印象的な緑色のアイが覗きます。
中央のグリーンアイ、アイを包む優しいピンク色、そして淡いグリーンへの柔らかなグラデーション。ゴージャスな花型でも見た目のインパクトが強すぎないのは、このゆらぎのある優しい色合いのおかげかもしれません。

 

生命力を感じる濃いグリーンの葉が花の淡さを引き締めていますね。
出荷はこのように30本入り、エルフバケツ入りでお届けしています。

 

広がるドレス、“劇場”にこめた想い

(“テアトロ”を紹介する名付け親)

そして実は実は、弊市場の社員の一人がこの“テアトロ”という名前の名付け親なのです。

このバラを一目見たときの第一印象は、「ドレスみたい!」。幾重にも重なる花びらがふんわりと広がる様子が、女優さんのドレスに見えたのだそうです。
そこで付けられたのが、劇場でドレスをまとったヒロインが踊り舞う様子をイメージしスペイン語で 劇場・シアター・演劇 という意味のteatro=テアトロという名前。

花のイメージはもちろん、この名前には「テアトロを手渡した方こそがヒロイン。ご自分用なら、自分がヒロイン」という想いが込められています。

名付け親のAさんがちょうど横にいらっしゃるので、「テアトロというバラはどんな存在か」伺ってみました。

企画部A
企画部A

思い入れがすごくある。今井ナーセリーさんは、育種家さんの中でもひときわ輝いていて、香りのあるバラという点でも特別だし、家族のように持ちつ持たれつの存在。
x線などの化学的な方法を使わずに、自分の手で交配して種を取るのは本当に手間がかかる。ようやってるなあと思うよ。品種を生み出すというのはすごいこと。何か残してあげたいという気持ちがあって。

膨大な数の種播き・選抜・テストを繰り返す育種は「商品になるバラが生まれる確率は宝くじが当たるよりも低い」といわれるほど途方もなく地道で大変な作業であり、品種を見極める感性も必要とされるお仕事です。

そうして生まれた品種をお花屋さんへ送り出すのが市場の仕事ですから、育種家さんや産地さんと市場はまさに運命共同体。だからこそ品種への思い入れや愛情も強く、テアトロを圃場で見たとき、このバラを出荷につなげてほしいと直談判したのだそうです。

まるでマネージャーが俳優さんを見つけ出し、大切にサポートするようにデビューしたテアトロ。この花に込められた愛情はお渡しする「ヒロイン」にもきっと伝わるはず、私はそう信じています。

おまけ:戯曲の中のバラ


(ジョン・エヴァレット・ミレー 「オフィーリア」 1851)

花の中でも特別ロマンチックな花であるバラは、演劇やミュージカルにもたびたび登場します。せっかくなので「テアトロ」にちなんで、バラが登場するシェークスピアの舞台作品をちょっぴりご紹介しましょう。

いちばん有名なのはロミオとジュリエットでしょうか。「どうしてあなたはロミオなの?」に続く部分ですね。

私の敵となるのは、あなたのモンタギューという名前だけ。私たちがバラと呼ぶものは、他のどんな名前で呼んでも同じように甘く香るわ。   
—「ロミオとジュリエット」

続いて「ハムレット」。オフィーリアは冒頭のミレーの絵のモデルになったハムレットの恋人で、このセリフは彼女の兄のものです。妹をいとおしむ気持ちが「5月のバラ」という言葉に込められています。

ああ5月のバラよ!かわいい乙女、やさしい妹、うるわしいオフィーリア!
—「ハムレット」

日本でバラが盛りになるのは5月中旬~6月なので「一番きれいな時期の華やかなバラかな?」と思いがちなのですが、作者の住むイギリスのバラの開花時期はもう少し遅い6月~7月。
このため、「盛りのバラ」というよりは「早く咲き、早く散る早咲きのバラ」を表しているものと思われます。なぜ、わざわざ早咲きのバラを重ねたのか…?詳しくはぜひ舞台をご覧になってくださいね。

シェイクスピアの作品には160種ほどの植物が登場しますが(詩を含む)、そのなかでもバラは90回以上と最多です。赤バラのランカスター家と白バラのヨーク家の争いと和解を描いた「ヘンリー6世」もシェイクスピアの作品。

→過去記事はこちら ローズの日バラの世界史②ベルサイユにはどんなばらが?

イギリス王室の紋章にもなったバラは、この世でもっとも素晴らしく、完璧で、美しいものの象徴として描かれています。

あとがき

 

こちらのロマンチックな花束は、84本のテアトロを組んだ贈り物。(画像提供:西濃フラワー様)これだけの本数があっても、やはりスタンダードなバラより優しい印象になりますね。まるでヨーロッパの絵画です。

花の姿のユニークさはもちろん、名前に隠されたメッセージが特別感を演出する テアトロ 。大切なヒロインへの贈り物にいかがでしょうか。

営業企画部

参考文献
金城盛紀,1987「シェイクスピアと植物」神戸女学院大学論集34(2),1-14
金城盛紀,1987「イギリス文学のユリとバラ」神戸女学院大学論集43(2),1-14

「花の研究室」の記事をもっと見る