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2021.07.31展示

【展示】アジサイはなぜ色を変えるのか

花はなぜ移ろうか

色が変わる花の例と目的


(伊藤若冲「芙蓉双鶏図」1761 酔芙蓉が午後に酔って頬を染めるように赤くなるのは、日の光を受けてアントシアニンの合成が進むため。)

過去の記事でもご紹介したランタナのように色が変わる花は珍しくなく、少なくとも被子植物の76科267属487種で確認されているそうです(2011)。
園芸植物で有名なのは白→ピンクに変わる酔芙蓉やハコネウツギ、紫→白に変わるニオイバンマツリなどですね。

こうしたお花の多くは双子葉類ですが、色が変わる花が親戚同士というわけではなく、様々な分類群で独立に進化したと推測されています。同じような袋があるけど科の違うカンガルーとコアラみたいなものでしょうか。


(ランタナ:クマツヅラ科の常緑低木)

花の色が変わる理由は、虫に受粉が終わったことを知らせるためという説があります。
実際、変化後の花は蜜や花粉の量が減っていたり、柱頭や花粉の状態が変化して種をつくる力が失われているものもあるようです。
ランタナも花の色変化前後でハチがやってくる回数に変化がありましたね。

しかし、受粉が終わったなら、すぐに花びらを落として果実を作る準備に入ってもいいわけです。維持にコストがかかる&虫にとって旨味の無い花をわざわざ残したうえ、新たな色の色素を作って着飾るのにはどんなわけがあるのでしょうか?

その理由は大きく二つ考えられています。

ブーケ作戦:植物全体のボリュームを維持することで ポリネーター(花粉を運ぶ動物) に見つかりやすくする
お歯黒作戦:受粉が終わって蜜などの報酬がないことをアピール、立ち去りを促す

それぞれ詳しく見ていきましょう!

①ボリューム維持と差別化=ブーケ作戦


(ピエール・オーギュスト・ルノワール「春のブーケ」1866)

当たり前ですが、虫と私たちの目のつくりや見えやすさには違いがあります。
例えば、蜜のある花のポリネーター代表:マルハナバチが直径1cmの花を見つけるには11.5㎝まで近づかないといけません。

一つのお花をぽつんと咲かせて待っているだけでは、見つけてもらえない可能性があります。
沢山の花をブーケの様に一斉に咲かせれば、それだけ株全体のボリュームが大きくなり、目に留まりやすくなりますよね。
受粉が終わっているお花でも賑やかしの一輪としてはたらくので、残すメリットがあるというわけです。

②受粉が済んでいることをアピール=お歯黒作戦


(渓斎英泉 「浮世四十八手 茶屋にまつやくそくの手」 1821-25 右の女性は白、左の女性はお歯黒をしています)

江戸時代、女性は結婚すると歯を黒く染める「お歯黒」と呼ばれるお化粧をしていました。この「お歯黒」のように、 受粉済みの花と受粉が済んでいない花を区別するために花の色を変えている というのです。

①のように古い花と若い花の両方が株に残っている場合、古い花に虫が来ても新しい受粉がされないので、受粉していない若い花と区別する必要があります。

また、植物はできるだけ遺伝子の違う株同士で花粉の交換をしたいので、同じ株に長居をされても困ります。受粉後(=既婚)のお花には甘い蜜や花粉がない(=仲介手数料がとれない)ことを色でアピールするのです。
仲人さんも家の一人一人に「既婚ですか?」と聞くよりも、一目でそうと分かればすぐに次をあたれますよね。


(葛飾北斎「アジサイに燕」19C)

本当にこれらの理由が正しいのか?花の色が変化する植物としない植物はどうちがうのか?についてはまだはっきりと分かっていないようですが、それぞれの花が色を変える理由を考えてみると面白いかもしれません。

(⇒次ページ:アジサイの“心変わり”はなぜ)

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