News新着情報

展示

2021.09.18展示

【敬老の日】リンドウの花言葉は「怖い」のか?青い花に乗せる想い


(オークションルーム展示:いわての花 リンドウ)

9月20日は敬老の日。ちょうど室内が涼しくなってお花を飾りやすい気候になってきましたし、切り花でも鉢物でも手に入りやすい「リンドウ」のプレゼントはいかがでしょうか。

お仏花として沢山出回るリンドウ、実は秋の花はお盆時期とまた違った表情を見せてくれ、季節の移り変わりも感じられるお花です。
ネット上では「怖い」花言葉があることでも有名ですが、もう一歩踏み込んでみると印象が変わるかもしれません。今回は、このリンドウについて深堀りします!

今回のもくじ
1 リンドウ 野山の青
 — 日本の野山から園芸種へ
 — 宮沢賢治とリンドウ
2 リンドウ 青色の意味
 — 怖い花言葉?「悲しんでいるあなたを愛する」
 — 青い花の意味
3 あとがき
 
キーワード:岩手県、宮沢賢治、花言葉、ラピスラズリブルー

(この記事のまとめ動画はこちら↓ 過去記事の動画は名港フラワーブリッジのYouTubeへ)

リンドウ 野山の青

日本の野山から園芸種へ

リンドウは リンドウ科リンドウ属 の植物で、温帯地方全域の高山に幅広く分布しています。その中で日本や中国、ロシアに自生するエゾリンドウなどの種は森林に生えるため、日本ではもともと山野草として身近な存在。「源氏物語」にも登場しました。

枯れたる下草の中に、竜胆、撫子などの咲き出でたるをおらせ給て、中将の立ち給ぬる後に、若君の御乳母の宰相の君して、「草枯れのまがきに残るなでしこを別れし秋のかたみとぞ見る。匂ひ劣りてや御覧ぜらるらむ」と聞こえ給へり。
—巻9「葵の巻」

しばらく野の花として愛され、1955年頃に長野県、1958年頃に岩手県で山採りや自家採種による切り花としての栽培が始まります(以下、参考文献*1,*2)。

その後岩手県が全国に先駆けて県内外の自生種をもとに育種開発を進めましたが、ここで課題となるのが品種の維持や世代を超えた品質の安定


(エゾオヤマリンドウ、エゾリンドウよりも高地に咲き背丈は低め。)

当初栽培していたリンドウは同じ種でも株同士でばらつきがあったり、性質を受け継がせようと同じ品種同士で種を作ると弱くなってしまったりと、 固定種(=固定された形質が親から子へ受け継がれる種) を作ることが困難でした。

そこで新たな方法、一代雑種育種によりやっとのことで生み出されたのが、故郷の名を冠した「いわて」という品種。この品種の誕生によって安定的な切り花の生産が可能になり、園芸種としてのスタートダッシュを切ることができたのです。

その後効率的な増殖手法も確立し、岩手県はいまやリンドウの一大産地となりましたが、岩手県農業研究センターの研究報告論文(*1,高橋1997)では

これまで、品種開発はほぼ順調に進んできたかのようにみえるが、それぞれの時期に抱えた課題を解決するための努力を行ってきた結果である。

と述べています。どんな花でもそうですが、野山の花をお花屋さんに並ぶ花へ洗練させるまでには、ひとかたならぬ試行錯誤が必要なようですね。

宮沢賢治とリンドウ


(「グスコーブドリの伝記」のブドリと妹のネリ。2019年)

リンドウの育種初期の切り花品種には、 岩手県出身の童話作家:宮沢賢治 にちなむものが多く登場します。

たとえば早生品種の“イーハトーヴォ”は、「グスコーブドリの伝記」などに登場する理想郷で、「いわて」をエスペラント語風にした造語です。
同じ年に品種登録された晩生の“ジョバンニ”「銀河鉄道の夜」の主人公の男の子、中生の“ホモイ”「貝の星」に登場するうさぎさん。後に栄養系品種として登場する“ポラーノホワイト”の「ポラーノ」は「ポラーノの広場」というお話からでしょう。


(宮沢賢治童話村のライトアップ、2019年)

これは宮沢賢治(以下、賢治さん)が岩手県出身であり、なおかつ自然や農業に深いかかわりがあるためではないでしょうか。
自然豊かな岩手の地で育ち、農業高校で教鞭を取っていた賢治さんの童話作品や詩には、リンドウをはじめとした野山の植物がそれは美しく親しみをもって描かれています。

→過去記事はこちら リンドウと宮沢賢治

賢治さんが亡くなるのが1933年、岩手県でリンドウの栽培が始まるのは前述の通り1958年。
おそらく賢治さんが見ていたのは立派な切り花になる前、野山に楚々として咲くリンドウの花かと思われます。

こちらは“マイファンタジー”、清らかな白をベースとして、口先にブルーが乗る爽やかな切り花品種です。もし賢治さんがご覧になったら、いったいどんな言葉で表現するのでしょうか。

(>次のページ:怖い花言葉?「悲しんでいるあなたを愛する」)

1 2