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花の研究室
2020.07.24花の研究室
【黒いチューリップ】アレクサンドル=デュマ生誕日によせて
2020年7月24日、本日はフランスの作家アレクサンドル=デュマの誕生日。さらに今年は没後150年です。
(『三銃士』『モンテクリスト伯』『仮面の男』など。ドラマチックな著作にふさわしい豪快な人生を送りました)
デュマの晩年の作品の一つに『黒いチューリップ』というものがあります。
「世界初のバブルを引き起こしたのはチューリップである」と言われていることをご存知でしょうか?
この物語の舞台がそのチューリップバブルの最中、17世紀のオランダなのです。
この写真のようにチューリップといえばオランダ、風車と花畑…なイメージがありますが
元はオランダの花ではなく、原産の中近東からヨーロッパへ渡り、トルコで品種改良を重ねたのち
1500年代に商人によってオランダにもたらされたという、現地の人たちにとってもマニアックな植物でした。
冬の寒さを乗り越えて春に花を咲かせる植物が少ない中、春に鮮やかな色の花を咲かせるチューリップの人気は高まっていきます。
当時のオランダは黄金期が始まるころ。
貿易で国は富み、ちょうど日本のバブル時代のごとくお金に余裕がある時代です。
やがてお金持ちの間ではチューリップは家で大切に守り育て、他人に自慢するためのステータスシンボルとして珍重されるようになりました。
『黒いチューリップ』の文中にも当時の様子をうかがわせる描写があります。
『当時その地方に流行していた道楽の中でも一番高尚で、しかも出費の多いものを選ぶことになった。
彼はチューリップを愛好することにしたのだった。』
(ウイルスに感染してモザイク模様になったものが大人気。)
また珍しい品種の球根は特に高値で取引され、土地や家・家畜などの莫大な財産と引き換えにされました。
作中では黒いチューリップに園芸協会から10万フロリン(=2億5千万円くらい?)の懸賞金がかけられています!
主人公はこの大変な富と名声そのものといえる黒いチューリップの球根を研究の末に作り出すことに成功するのですが、
欲と嫉妬にかられたお隣のチューリップ育種家に四六時中監視され、監獄送りにされ、
命からがら持ち出した球根を付け狙われと大変な目にあいます。
筆者が生まれた国と時代こそ違いますが、デュマが書いたこの『黒いチューリップ』からは
主人公を含めた人々の「チューリップ狂」ぶりをうかがうことが出来ますよ。
読み終わった後にはチューリップの見方が少し変わるかもしれません。
(現代では私たちも「黒いチューリップ」を育てることができます)
やがてマニア以外の庶民にもチューリップは高く売れる・儲かると広まり、ますますブームとなります。
お花自体に関心の無かった人々、チューリップの花を見たこともない人でさえも儲け話に乗って球根の取引・投機をしたそうですが、
あまりに価格が高騰したためにバブルは崩壊、多くの人々が一転して財産を失うこととなりました。
私の考察ですが、
球根が一年に数個しか増えず、種から花をつけるまでに5年以上かかるという
品種を作るにも殖やすにも大変な手間と月日がかかる植物だったというのもこのバブルの一因だったのではないでしょうか。
かくして経済に大打撃をうけたオランダは世界の強者の座をイギリスに奪われていきます。
本当に経済学的にバブルといえるのか?は賛否が分かれるようですが、
それでもたった一つの花が国の経済を動かし、人々の人生の明暗を分けたのは確かです。
まだまだ季節は先ですが、チューリップを見かけたらこんな歴史にも思いを馳せてみると
危うさが加わってより美しく感じられるかもしれません。
営業企画部