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花の研究室
2021.03.20花の研究室
菊=「お仏花」だけではない?進化するマムの魅力【イノチオ精興園さん】
花粉症の方にはつらい季節ですが、すっかり日差しも温かく春らしくなってきましたね。
今年の春彼岸は3月17日から23日までなので、本日19日はお彼岸真っ只中。
ということで、今回はお彼岸に欠かせない菊、そして「マム」について今一度掘り下げてみたいと思います。
菊、日本の最上の花
以前の記事でもご紹介した通り、菊は古来より清らかで格調高い花として扱われてきました。
お葬儀やお仏花のイメージが強いですが、菊がお葬儀の花としてメインで使われるようになったのは明治時代が始まり。
実際、1960~1970年代の紅白歌合戦やレコード大賞では菊が花束として贈呈されていたのです。
写真を検索してみると、1965年 美空ひばりさんの「柔」の受賞シーンでは菊・バラ・カーネーションの花束、1972年 ちあきなおみさんの「喝采」では黄色の菊が入った花束が見られます。
葬儀・仏花としてのイメージはこの高度経済成長期以降に定着していったようです。
菊の長い歴史の中で考えるとかなり最近ですね。
白い輪菊の花束を贈呈されていますが、こちらは
「葬儀用の花だ。いやがらせではないのか」と物議を醸しているようです。
加温電照栽培が普及し始めた1970年代のことなのです。
本当に誰かが故意に白菊を選んだのかどうかは分かりませんが、いずれにせよ、
白菊=葬儀花というイメージが定着し始めていたということが言えそうですね。
もしかすると、花束を選んだ人は「お葬儀の花」というイメージを
まだ持っていなかったのかもしれません。
「マム」とは?菊との違い
とはいえ、まだまだ一般の方には菊=仏花のイメージが強いかと思います。私自身も「マム」の存在を知るまでは「菊はお供えの花だよなあ…」と敬遠するところがありました。
近年ではお仏花用とは違った使い方・違った魅力があることをアピールするために、葬儀用に限らない豪華な菊・洋菊のことを英名の「クリサンテマム」からとって「マム」と呼ぶ動きがあります。
中でも余分な蕾を摘み、一輪を大きく仕上げる「ディスバッドマム」はダリアのような華やかな色味とボリューム感があり、和装のブライダルにもぴったり!
菊が持つ魅力を現代風に引き出した品種、「マム」の素晴らしさを広めようという関係者さんの取り組みによって「菊=お葬儀・お仏花」というイメージが払拭されようとしているのです。
(ディスバッドマム)
国内では 北海道の南空知、長野の信州諏訪、そして愛知県がマムの大きい産地です。
われらが地元、愛知県は全国の約3分の1の出荷量を誇る菊の大産地!渥美の電照菊が有名ですね。
もともと菊は切花で最も流通量が多い花ですが、お葬儀用の需要の縮小を受けて年々生産量は減少しています。
コロナ禍でお葬儀自体が小規模化している今、カジュアルフラワーとして楽しめる「マム」の生産の割合は増えていくのかもしれません。故人の好みに合わせた、お葬式花の洋花化にも適応できるのではないでしょうか。
仕立て方で変わるマムの魅力
菊には2つの仕立て方があります。
一つは、脇芽を伸ばして小さな花をたくさん咲かせるスプレー仕立て。
もう一つは、ディスバッドマムのように一つの蕾だけを大きく咲かせるスタンダード仕立てです。
それぞれの仕立て方に適した品種がありますが、仕立て方を変えれば同じ品種でも異なる表情を見ることができるのです。展示ルームでは2つの仕立て方のマムを並べて展示中!スタンダードとスプレーを見比べることができるレアな機会ですよ。
というのも、一つの蕾をじっくり育てるスタンダードと頂花が咲いたら出荷するスプレーとでは出荷のサイクルがずれるため、一つの生産農場で二つとも栽培するということは珍しいことなのです。
ただ今展示中のマムは、菊の育種会社 イノチオ精興園さんからいただいたサンプル。
今年は感染症対策のために試験農場での見学会の開催を中止、代わりに市場展示で品種の紹介をされています。
市場にお越しの際は、この機会にぜひ展示をご覧くださいね。
菊を作って1世紀。イノチオ精興園さん
イノチオ精興園さんは、愛知県田原市と広島に試験農場をもつ菊の老舗です。
こちらはイノチオ精興園さん作出、JFSジャパンデザイン特別賞受賞の”セイマノア”。まるで両手を組んでお祈りするように、くるくると巻いた花びらは一度見たら忘れられません。
スプレー仕立てのふんわりとした形も、どの花に似ているとも言えない妖艶な咲き姿ですね。
時期による花色の変化も特徴です。
こちらはライフデザイン特別賞受賞、優しい色合いにカップ型の花型が愛らしい”セイヌーボ”。
透き通るライムグリーンに、赤色が乗る花色が個性的な”セイクリスティーナ”
フラワー・オブ・ザ・イヤー受賞の”セイフェスト”。ダリアのような花型も色も華やかで、非常に写真映えがしますね。
ご覧の通り個性的なマムを生み出す秘密は、親となる品種の引き出しの多さと、それを掛け合わせる感性。長年の実績とノウハウが色や形のバリエーションを生み出しているのです。
海外の「マム」
海外でマムは「chrysanthemum(クリサンテマム)」と呼ばれ、バラやチューリップと並んでバレンタインにも使われる花。「菊といえば和」「菊といえば仏さま」という先入観がない分、花材の一つとして日本よりも自由に使われているようです。
「#chrysanthemum」「#chrysanthemumbouquet」などのハッシュタグで海外の投稿を検索してみると、実に様々なアレンジが見つかりました。
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マムをメインに使った、大人の女性っぽいシックなブーケ。こちらはインドネシアのお花屋さんの作品です。
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菊のふるさと、中国のお花屋さん。黄色のスプレーマムに、現代的な斑入りの葉ものが目を引きますね。
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オランダのフローリストによる、マムで作ったファンシーなリース。ふわふわです。
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スプレーマムを草花と束ねたシャンペトル風、
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カラフルな配色で楽し気なテーブルアレンジ。
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こちらの花束もとってもカジュアルですね。
パステルカラーのテーブルアレンジ・深い色合いの大人っぽい花束など、マムの豊富な花色を生かした作品が多く
本当に草花の一つとして分け隔てなく使っているのだな、という印象を受けました。
今再び、「菊」「マム」を花束に
前述したとおり日本では「お仏花」のイメージが色濃い菊ですが、花色・形が多様で日持ちも良いですし、切花として用途を限らず使える花なのですね。
少し変わった洋菊品種だと「え、これも菊なの?」と言われることも少なくありませんから、一般の、特に若い方や普段花に馴染みのない方には、思ったより抵抗感なく受け入れられるのでは。
イノチオ精興園さんが作出されたマムのような品種もそろっている今、もう一度菊の花束が贈られるようになる日も近いのかもしれません。
営業企画部