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花の研究室
2020.11.04花の研究室
香りのない花のすすめ【笑わなくても美人は美人】
先日学生さんとお話する中で、
「花は好きだけど、香りが強くてリビングに置くにはちょっとな…という体験があった」
という話題がありました。
夏目漱石の小説『それから』でも、主人公とヒロインの抗えない恋心と重ねられた
むせ返るほど濃厚なユリの香りの描写がとても印象的。読んでいるこちらまでくらくらしそうです。
この時代にはまだありませんが、白いユリで名高い「カサブランカ」は非常に強い芳香をもっています。
香りは花の大きな魅力の一つですが、自分の意志とは関係なく感じられてしまう厄介なものでもありますよね。
長い時間を過ごすリビングや食事の場には適さないこともあるかと思います。
そもそも花はどうやって香るの?
①香気成分をもつ(作っている)こと ②香気成分が揮発すること
この二つが花が香るための大まかな条件ですが、「香り」の仕組みはとても複雑。
花は品目ごとにとりどりの香りを持っていますが、
実は同じ花・同じ品種でも季節・栽培地など環境が変わると香りも変化します。
私自身も とある商品を使っていて驚いたことですが、
同じ産地で同じダマスクローズから作られたローズウォーターだとしても、
香りは毎年変わるのです。
そして花の香りには香水と同じように、はたまたそれ以上に沢山の香気成分が含まれています。
それぞれの香気成分が作られ、発散されるブレンド具合は時間帯や日照によっても変わり、
ユリは夜になるにつれて濃厚に香る・バラは早朝に最も薫り高くなる、と花の品目によってもその仕組みは様々。
花粉を運んでくれる虫や動物といったターゲットの好みや活動に合わせて、
このような香りの種類・タイミングが決められているといわれています。
では香気成分はどこで作られてどこから出てくるのか?というとこれも様々で、
花びらからという種もあれば雄しべや雌しべからという種もあるようです。
しかしユリやバラなどの切り花でポピュラーな花は花びらから香るものが多いので、
香りを出す部分だけ取り除いてしまおう!とするとお花がなくなってしまいます。
(ユリの香りを抑える抑制剤も開発中の様ですが、販売や実用化はされていないみたい)
今のところ香りを避けるなら、香りの無いお花を選んで飾るのが一番の手段ですね。
「香りのない花」の提案
*がくや苞が花のようになっているもの
どうやらがくや苞から香るものは少ないようなので、これを一つの基準にしてもいいのでは?と思います。
花もちがいい物が多いのも嬉しいポイントですね。
アジサイ
…写真は秋色アジサイ。切り花では初夏以外の時期でも手に入れることができます。
カラー
…品種により旬はありますが、周年出回ります。
アンスリウム
…こちらも暖かい季節がシーズンですが、周年出回ります。
また、実はこちらも花びらを持たず、がくが花びらのように見えているお花です。
アネモネ
つぼみをよく見てみると、つぼみを包み込むがくがありませんね。
下にあるのはがくではなく、苞葉という葉っぱです。
またアネモネと同じキンポウゲ科には、香りの無いお花が多くあります。
*キンポウゲ科のお花
ラナンキュラス
…アネモネと雰囲気は似ていますが、こちらはれっきとした花びらで形作られたお花。
*一部香りがある種もあるようです
クリスマスローズ
…鉢花で近頃人気なお花ですが、切花でも流通しています。
ドライフラワーにしても可愛いですよ。
デルフィニウム
…透明感のある花びらが可愛らしく、白・水色・青・ピンクとカラーバリエーションがあります。
周年出回ります。
シュウメイギク
…お茶花としても使えそうですね。
茶花では香りの強い花は「禁花」として飾るのは控えられるそうです。
ニゲラ
…初夏に咲く可愛い草花、風船のような実も見どころです。
その他、手に入れやすいお花
ダリア
…香りのしないお花の中でも、特に存在感を放ってくれる華やかなお花です。
周年出回ります。
トルコ桔梗
…素朴な一重咲き、ゴージャスな八重咲きがあり、周年出回ります。
△香る品種が多いもの
ユリ スイートピー かすみ草 ハイブリッドスターチス フリージア ミント系 スイートピー
など…
*切花用で花びらの数が少なく、きちっと整った形のバラ(「サムライ08」などのような剣弁高芯型)は
香りがほとんどしないものも多いので、店頭で確かめてみてくださいね。
シクラメンなど本来香りを持つお花でも、品種改良を重ねるにつれて香りを失っていくということは
ままあるようです。
研究から考える
①香りの無い花1輪の花いけでも癒し効果は認められた。
(「一輪の花をいける行為およびその花の鑑賞が自律神経機能および肩の筋硬度, 心理的な癒しに与える影響」)
こちらは2020年に掲載されたばかり、ピカピカの最新研究です。
実験では一輪の花を活け、観賞することの癒し効果を測定したのですが、
この際使われたのは香りの無いお花でした。
香りがなくとも、目を楽しませることで十分に癒しが得られると言えそうですね。
②日本人には日本古来の香りの方がフィットするのかも?
(「日本由来の香りが日本人にもたらす交感神経活動の鎮静作用」)
「梅」「桜」「藤」の日本古来の香りの癒し効果を検証した研究で、
「文化、生活環境、経験によっても香りの印象は変わる」
ということが示された先行研究がいくつか紹介されています。
ユリなどの香りと比較はされていませんが、もしかすると慣れ親しんだ香りの方が
きつく感じにくいのかもしれません。
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「香りの無いバラは笑わない美人」と言われたりしますが、笑わなくても美人は美人です。
飾る場所やお好みに合わせて、香りのないお花・あるお花を楽しんでみてくださいね。
営業企画部