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花の研究室

2023.02.15花の研究室

【浅水?】植物が水を吸い上げる仕組み【深水?】

だいぶ日が伸びてきましたね。出勤するときに真っ暗だったのが明るくなって助かります。
この調子で早く暖かくなってほしいものです。

セリ場でも桃や桜といった春らしい枝ものを見かけるようになりました。
花を飾って春の訪れをお部屋でも楽しんでみるのはいかがでしょうか?
部屋に花があると見て癒されるだけでなく、生命の力強さを分けてもらえるような前向きな気持になります。せっかく花をいけるなら長くきれいに保ちたいですよね。
花のいけ方を調べていると花瓶の水は少なめにすると長持ちする浅水でいけましょう、といった記事を目にします。水はたっぷりとあった方がいいイメージがありますが、花瓶の水の量と切花にはどのような関係があるのでしょうか。

 今回のもくじ
1 植物が水を吸い上げる仕組み
2 浅水と深水の違い
浅くってどのくらい?  
深くってどこまで?  
3 おまけ:水の中で茎を切るといいって聞くけど……
4 あとがき 

 

水を吸い上げる仕組み

まずは土壌にある植物が水を吸い上げる仕組みを理解しましょう。

①土壌中から根っこへ

水はイオン濃度が薄い方から濃い方へと移動します。
例えば漬物。塩にはナトリウムイオンがたくさん含まれていますね。そこにキュウリを入れるとキュウリの水分が塩へ移動し、塩は水っぽく、キュウリはしわしわになります。


同様に植物の体内には光合成で生産された養分を含んでいるため多くのイオンを持っています。イオン濃度が薄い方から濃い方へ、土壌中から根へと水は移動します。(浸透圧ポテンシャル)

 

②根っこの細胞が茎や葉へ押し上げる

植物の細胞内に水が入ると圧力が上がり、吸い上げた水を地上の茎や葉に押し上げようという力が働きます。(圧力ポテンシャル)

 

③表面張力で上へ上へ

茎の導管に入った水は、表面張力により細い管の液面が管外よりも高くなる毛細管現象が起きます。

ジュースに挿したストローの両端の少しだけ盛り上がった水面、メスシリンダーで液体を測るときについつい読みたくなる少しだけ高くなった両端、これらも毛細管現象によるものです。(マトリックポテンシャル)


また、水には水分子が互いに引き寄せ合う凝集力があるため、上に上にと集まっていくのです。

 

④吐き出す力と吸い上げる力

植物は光合成によってできた酸素を排出する際に同時に水蒸気も排出しています。
 排出されると当然水分含量が減少するので、木部を介して根から水を吸い上げようとして①に戻ります

これらの①~④の過程にある力が合わさって植物は水を吸い上げています。
切花では根がないため上記の③、④の過程のみが行われます。

 

浅水と深水の違い

それでは本題!
浅水と深水がそれぞれどんなものなのか見ていきましょう。

浅くってどれくらい?

花瓶の底から3~5㎝と少ない水で切花をいけることを浅水といいます。

ガーベラやアネモネ、ヒマワリは茎に産毛のような細い毛が生えているものや、春に咲く球根植物のチューリップやラナンキュラスなども茎が柔らかいものは傷みやすいです。茎が痛むとそこからバクテリアが発生し、水の中で増殖してしまいます。そうなると道管(水の通り道)が詰まって水が行き渡らず、枯れてしまうのです。

こういった切花では浅水でいけることで茎が水と触れる面積が小さくなり、長持ちさせることができます。

 

深くってどこまで?

深水、といっても花瓶になみなみするほどの水を入れるわけではありません。花瓶の底から5~10㎝ほどで十分です。

水圧は水面から深いほど大きくなるので、水を吸い上げる力が弱い花や茎を切ると白い液体(乳液)が出て道管をふさいでしまう切花はこれを利用してしっかり吸い上げさせます。

水と触れる面積が大きいのでバラやダリア、キク科、ブルースター、芍薬の他に、アジサイや枝物などの茎がしっかりとしたものが適しています。
また、茎の柔らかい切り花でも萎れてしまった状態から水をたっぷり吸わせてピン!とさせるため一時的に深水でいけることもあるようです。

 

おまけ:水の中で茎を切るといいって聞くけど……

水を清潔に保つのはもちろん、2,3日に一回水に浸かっている茎を切る(切り戻し)ことも長持ちに効果的です。これは乳液で詰まってしまった導管や腐り始めてバクテリアの発生源となった箇所を取り除くことで吸い上げをよくするために行います。
ところで茎を切るときは水の中で、というイメージはありませんか?
どこかで聞いてそうしているけど急に理由を聞かれると少し困ってしまいますね。
実は水の外で切ると導管に空気が大量に入ってしまい、水を吸い上げにくくなってしまうのです。
私たちが注射をする際に血管に空気が入ると栓になって命にかかわるのと同様に、植物にとっても大きな空気の塊は栓となって命を脅かす存在です。
水中で切り戻すと水の吸い上げがよくなる」ではなく、「水の外で切り戻すと吸い上げが悪くなる」の方がニュアンスとしては正しいのかもしれません。

 

あとがき

桜や梅をいけるなら水を多めに張った深水がいいことがわかりました。
めんどうだな~と思う作業でも意味がわかると俄然やる気が起きるような気がします。花の形を楽しむのはもちろんですが、どんな特徴があるのか茎をじっくり観察してみても面白いかもしれません。

植物の水の吸い上げや呼吸、生長などについて突き詰める分野を植物生理、切り花など収穫物の水の吸い上げや状態の変化について考える分野を収穫後生理といいます。
生理学と聞くと少し身構えてしまいますがとてもおもしろい分野なので、植物の仕組みっておもしろい!と思った方が少しでもいらっしゃったら嬉しいです。

著.もくめ

 

【参考サイト】
(https://flower-bloomer.com/shinsui/ 2023.2.2)
(https://www.aoyamahanamohonten.jp/blog/2020/07/28/keep-flowers-fresh/ 2023.2.2)
(https://www.i879.com/hanablog/care/2013/10/21/1026/ 2023.2.7)
(https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=656 2023/2/9)
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/8/2/8_2_235/_pdf 2023/2/9)
(https://kids.gakken.co.jp/kagaku/kagaku110/science0223/ 2023/2/14)
(https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1974&target=number&key=1974 2023/2/15)
(https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010933048.pdf 2023/2/15)
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/6/3/6_3_487/_pdf 2023/2/15)