お花の「ソノサキ」を追跡リポートする企画です。
お花は「生産者の顔」が見えづらいものであると同時に、
「消費者の顔」が見えづらいものでもあります。
日々自然と向合う中で育ててきた花の、出荷した「そのさき」が見えない生産者さん。
お客様に送り出した「そのさき」を見る機会の少ない私たち市場関係者。
出荷後のお花がどんな作品になり、どんなお客さんに届き、どんな感情を生んだんだろう?
また一般のお客さんは店頭での完成された姿しか目にしないため、そのお花一つ一つに
誰がどんな想いで関わって届けられたのかを知ることができません。
お花は産地・市場・お花屋さん・ご家庭と様々な人、場所を巡りますが、
それぞれの立場からは「そのさき」が見えないのです。
そこでこの企画では市場から小売店様、
そして一般のお客様まで届く様子を追跡・取材してお届けします!
日々手にするお花の「そのさき」の光景を、身近に感じて頂けたら幸いです。
第4回目、今年初めての「ソノサキ」は愛知県名古屋市千種区の小売店 さくま松花園さんです!
市場にて、切花・鉢物の積み込みの様子です。
写真右の胡蝶蘭は愛知県田原市、沖田オーキッドさんのもの。
品質・株の作り込みの良さから大変ファンの多い生産者さんです。
POINT
質のいい胡蝶蘭を選ぶときに大切なのが、どんな環境にも耐えうる株の力です。
ぬくぬくと過ごしやすい環境で育てればそれなりの花はつきますが、
花の真価が問われるのはエンドユーザーに届いた後。
鉢が出荷されたあとの環境は暑さ寒さ、温度湿度も様々。出荷前は良くても、お客様が観賞する時に良い花が長く咲くとは限らないのです。
そのため質の良い胡蝶蘭づくりには、厳しい環境でも花もちし、良く咲くためのパワーのある株づくりが大切!
「胡蝶蘭は沖田さん!苗の力が違う。」というのがさくま松花園さんのこだわり。
また県内の産地であるため、輸送の際のストレスも最低限で済むのです。
競りが終わり、店舗バックヤードでは持ち帰った花の水揚げをされていました。
丁寧に葉などの処理をした後は、水揚げが終わり次第店頭へ並べられます。
水揚げの活け水は花の種類によって変えられているそうで、
この日はチューリップ専用の水揚げ剤(BVB)を使われていました。
咲いてからの花もちが全然違うし、
徒長が少なくなります。
枝物の雪柳は、ハンマーで枝元をしっかり叩いて水揚げ。
木質化して固くなった枝の繊維をほぐすことで吸水面を広げるのです。
昔から知られている水揚げの方法ですが、
店主さんいわく
「やり方は合っていても、『こういう理由だから』と理由を知ってやるのと、
知らないでやるのとでは結果が違う」
とのこと。
店内にお邪魔すると、カウンターにはご予約の花束が。
このバラは”サムライ”という有名な赤バラ品種で、三重県の伊勢から市場へやってきたものです。
伊勢バラといえばしっかりした花つき・日持ちの良さに定評があるブランド産地!
「伊勢のサムライ」はさくまさんにとって別格のお花で、
試しに切らずに置いておいたところ1カ月も日持ちしたのだとか。
店員さんも店主さんも度々ご自宅へ花を持ち帰って飾られ、
この年末にも店員さんがお家での花もちの良さに驚かれていたそうです。
自分たちで使って飾らないと、本当の花もちは分からない。
購入後どうなるか知っていると、店舗でも安心して説明できます
この日組む様子を拝見できたのは、
スイートピー、ラナンキュラス、チューリップの入った春らしいビタミンカラーのブーケに、
紫色ベースの上品なブーケ。
市場では一種類の花が詰まった箱を見るばかりですから、
こうしてとりどりの花材が美しく合わせられているのを見るのは嬉しいものです。
何気なくラッピングを留めた、ホッチキスの芯の色はピンク色。
芯にはピンク色と緑色を使っているそうです。
売ってるのを買ってきただけだし、
たいしたことじゃない
と言われましたが、気配りの気持ちは細部に宿るのだな…と取材班は感心しきりでした。
カウンターの前にはお仏花がありました。
仏花は毎日作り、古いものがないように。
少し茎を長めに組み、お客様の前で足元の切り戻し・保水までしてお渡しするそうです。
「ちょっと行くだけだからいいよ」と言われても切るようにしています。
乾いたものと湿らせて持って帰ったものとでは違うから。
(お客様が)” やってほしいから ” ではなく ” やらせてもらっている ”
という意識でやっています
サカキも仕入れたものは全てばらして作り直し、切り戻しをします。
「うちより綺麗なサカキはない」と胸を張るお言葉通り、
お店のバックヤードに飾られたサカキまでも大変綺麗なものでした。
お仏花やサカキはちょこっとしたものだけれど、毎週のように必要になるもの。
「おたくのが一番持った」という体験の積み重ねから、お客さんとの信頼関係が生まれていくのです。
華やかな贈答用の花に比べれば地味にも思えますが、お花屋さんにはとても大事な品物なのですね。
店内を見学していると、あちこちに温度計が置かれているのに気が付きます。
当たり前のことですが、鉢物も切花も生き物。
動くことができない植物にとって大きな環境の変化はストレスになり得ます。
お客様の元に渡る前に花を疲れさせないためには、環境をモニターすることが大切なのです。
胡蝶蘭と観葉植物のショーケースにはヒーターとサーキュレーターが。
中にある温度計を見ると、外よりも3,4℃温かくなっていました。
寒さが苦手な胡蝶蘭に合わせて環境を調節されているのがうかがえますね。
「伊勢のバラ」「沖田さんの胡蝶蘭」など産地にこだわるのは、商品の当たり・外れを無くすため。
来店されたお客さんが最初に尋ねるのはやはり「良くもつのはどれ?」ということですが、
長持ちしさえばいいという訳でもなく、
「欲しいものが持つものであってほしいなあ…」というのが本当の所。
店頭の全ての花にとって、日持ちは大切なのです。
買われたあと、さらに別の所へ持っていきたいお客さんもいますから。
余計なお世話かもしれないが、お渡しした先のことも気になる。
最近はお客さんも色々で、写真になればいいという人もいるだろうけど
水はどうするのか?そのあと持つのか?気になってしまいますね。
さくま松花園さんに来られるお客様は、法人というよりも、周辺地域にお住いの方がほとんどだそう。
来店されたお客さんと一緒にショーケースの花を選ばれたり、
「これは良くもつよ」と気さくに会話をされている様子に
地元のお客さんとの信頼関係が表れているようで印象的でした。
お客さんに恵まれ、助けられている。お客さんに教えられることもあった。
個人の方ならお家に飾って頂けるので、ソノサキの様子を聞くことができる。
日持ちしたかどうか?はこだわっている部分なのでどんどん聞くし、よく覚えています。
・お仏花やサカキのような、ちょっとした繰り返しがお客さんとの信頼関係をつなぐこと
・お客さんがさらに誰かにプレゼントしたい時もあること
は、お聞きして確かにと思ったことでした。
お客様にお渡しして終わりではなく、日持ちするか?そのさきはどうか?を想う言葉を繰り返し語っていた店主さん。
「これって、私たち市場が小売店さんにお花をお渡しする時にもいえることだよな」
と、ハッと気づかされる想いです。
私も普段の現場からお客様を想った丁寧な引き渡しをしよう、
そしてもっともっと花が向かったソノサキを見・聞き・伝えていこう、と気持ちが引き締まる取材となりました。
ソノサキを気に掛けるからこそ信頼関係が生まれる
お客さんからの評価には理由となるこだわりがある
私たち市場も、市場の先のお花屋さんでの花の様子、
またその先の消費者のお家での花の様子を知り、一層気にかけていこう
取材協力:さくま松花園 さん ありがとうございました!
営業企画部